Oculus Questと他のスタンドアロンVRのスペックを比較してその凄さを知る
Oculusは、これまでSanta Cruzと呼ばれていた次世代型スタンドアロンVRヘッドセットを、Oculus Quest(オキュラスクエスト)として発表しました。この記事では、他の主要スタンドアロン型VRヘッドセットとスペックを比較し、どう優れているのかを掘り下げていきます。またOculus Riftとも比べます。
スタンドアロン型VRヘッドセットとは
スタンドアロン型VRヘッドセットとは、ヘッドセット内にコンピュータが内蔵されているタイプのものを指します。そのため、PCやスマートフォンが別途不要でこれだけ買えばよく、セットアップも簡単で比較的安価に導入することが出来ます。
スタンドアロンではないOculus RiftやHTC Viveは別途PCが必要なため、高価なPCを用意し、接続の設定をする必要があります。
スタンドアロン型ヘッドセットのスペック比較
販売元・モデル | 表示パネル | SoC | トラッキング | 重量 | 価格 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
片目解像度 | IPD 調整 |
視野角 | 方式 | リフレッシュ レート |
HMD | コントローラ | ||||
Oculus Quest | 1600 x 1440 | ○ | 110° (?) |
有機EL | 72Hz | Snapdragon 835 | 6DoF | タッチ型 6DoF |
571g | $399 ¥49,800 |
Oculus Go | 1280 x 1440 相当 (2560 x 1440 を分割) |
× | 110° | 液晶 | 60Hz or 72Hz |
Snapdragon 821 | 3DoF | リモコン型 3DoF |
470g | $199~ ¥23,800~ |
Lenovo Mirage Solo | 1280 x 1440 相当 (2560 x 1440 を分割) |
× | 110° | 液晶 | 75Hz | Snapdragon 835 | 6DoF | リモコン型 6DoF |
645g | ¥56,268 |
Vive Focus | 1440 x 1600 | ○ | 110° | 有機EL | 75Hz | Snapdragon 835 | 6DoF | リモコン型 6DoF |
512g ? |
$625 |
(参考) Holo Lens | 透過型 | Atom x5-Z8100P | 6DoF | 手を検出 | 579g | $3,000 | ||||
(参考) MagicLeap | 透過型 | Tegra X2 | 6DoF | 手を検出 | 325g (バッテリー外付) |
$2,295 | ||||
(参考) Oculus Rift |
片目 1080 x 1200 | ○ | 110° | 有機EL | 90Hz | PC の CPU/GPU を使用 | 6DoF | タッチ型 6DoF |
470g | $499 ¥50,000 |
※Oculus Questは2019春発売予定、VIVE Focusは日本未発売
表示パネル
Oculus Questは、現時点PCのVRで最高の表示パネル性能を持つVIVE ProやSamsung Odysseyとほぼ同等の性能を持っています。
解像度は全く同じです。リフレッシュレート(画面の更新頻度、Hzは1秒間に何回更新するか)が 90Hz vs 72Hz と多少劣りますが、この差が気になるコンテンツ・場面はあまりないでしょう。Oculus Riftや初代HTC VIVEのユーザであれば、網目感の少なさによる表示品質の向上が期待できます。
Oculus Goとの比較
Oculus Goと比較しても解像度が上がっていますが、特筆すべきはOculus QuestではPC向けヘッドセットと同様に、表示パネルが両目に一つずつ割り当てられていることです。これにより物理的なIPD(瞳孔間距離、個人差により生じる両目の離れ具合)の調整機能が実現できます。ヘッドセット内の表示パネルを物理的に目の真ん前に持ってこれますから、表示領域の無駄がなくなり体感の解像度・視野角はさらに向上します。
パネル方式はバックライト方式の液晶から自己発光デバイスである有機ELになっています。これにより、黒色の表示が締まり、より高い没入感が得られます。
他のデバイスとの比較
Oculus QuestがVIVE Focusに、Oculus GoがMirage Soloに近い表示性能になっています。こうしてみるとVIVE Focusの本気度の高さが伺えます。
まだ詳細が発表されていないVive CosmosはQualcomm社のリファレンスデザインから2160 x 2160の表示パネルを搭載しているのでは無いかと噂されています。しかしながら、位置付けとしてはVIVEよりも下であることがアナウンスされているので、そこまでの解像度は持たないのでは無いかと予想します。
トラッキング方式とコントローラ
Inside Out と Outside In
取り上げているスタンドアロン型のヘッドセットは、Oculus Go以外の全てがInside Out方式の6DoFになっています。
Inside Out方式はヘッドセット側にカメラをつけて、その外界の映像から自身の位置や向きを検出する方式です。それに対してOculus Riftのように周囲にカメラを設置してヘッドセットのマーカーを検出する方式をOutside Inと呼びます。HTC VIVEはLight Houseと呼ばれる機器を設置するものの、カメラがヘッドセット側にあるのでInside Out方式に分類されます。
カメラで直接外界の映像を処理するタイプのInside Out方式は、機材の設置が不要なので、セットアップの手間が省けるのと同時に、移動範囲の制約を受けにくくなります。これが大きなメリットです。Windows Mixed Realityでも同様の技術が採用されていますが、ケーブルに縛られないスタンドアロン型のVRヘッドセットには、まさにうってつけの検出方式と言えます。
6DoF と 3DoF
Oculus Goは加速度センサとジャイロセンサを組み合わせた単純な3DoFになっています。これは、単純に頭が向いている方向を検出するだけで、平行移動は検出できません。主に座ってVRを体験するための仕組みです。
それに対して 6DoFは実空間上の位置を検出する事ができます。これによりVR空間を移動すると、実際に歩いているような体験が得られます。
コントローラのトラッキング方式
ヘッドセットのトラッキング方式、つまり自分自身の向きや位置がVR空間に反映できるかどうかについて説明しました。トラッキングについて考える場合は、これに加えて、コントローラのトラッキング方式、自身の仮想的な手や棒状の物体をVR空間に持ち込んだときどうなるか、がもう一つのポイントになります。
3DoFの場合はコントローラを傾けることでVR空間を指し示す操作のみが行え、それ以上の複雑なことはできません。6DoFの場合はVR空間にコントローラがそのまま存在するような体験になり物を直接触ってつかんだりできます。
機材設置不要の6DoFかつ、リモコン方式ではない本格的なコントローラを持つのはOculus Questがスタンドアロン型のVRでは初めてです。PC用ではWindows Mixed Realityでも実現できていましたが、頭の向きと逆方向の位置にコントローラを持って行くとトラッキング範囲を超えてコントローラを見失ってしまうようなことがありました。
Oculus Questでは、コントローラはかなり見失いにくくなっているレポートが上がっています。おそらく、コントローラ側の加速度センサによる補正に加えて、ヘッドセット側についているカメラ型のセンサにも秘密があるのでしょう。Oculus Quest以外ではヘッドセットの正面に2つカメラが付いていますが、Oculus Questでは4隅についています。これにより、トラッキング用カメラ自体がかなり広い視野角を持っており、それによってコントローラを見失いにくくなっているのでは無いかと考えられます。
Oculus Quest用コントローラとOculus Touchとの違い
Oculus Questのコントローラは、Oculus Rift用のコントローラOculus Touchに似ていますが、輪っかが下向きから上向きになっています。輪っかの部分にはIRカメラから検出するための多数のLEDマーカーが埋め込まれているので、ヘッドセットから検出しやすい位置に変更されたのだと予想します。
SoC の比較
SoCはSystem On Chipの略で有り、CPU・GPU・無線など多くの機能が統合されたチップの事を指します。スタンドアロンVRデバイスにおいて、SoCは言わばコンピュータそのものです。
Oculus GoはSnapdragon 821、Oculus Questを含む主要なスタンドアロンVRヘッドセットはSnapdragon 835を採用しています。
SnapdragonはQualcomm社製のチップセットであり、8xx系はハイエンドスマートフォン向けのラインナップなっています。一般的に数字が大きくなるほど世代が新しく性能が良くなっていきます。Oculus Goは360度ビデオなどのメディアコンテンツの鑑賞が主であり、Oculus Questはゲームなどのインタラクティブコンテンツを楽しむためのデバイスである、と位置づけられています。
それもあってか後発のOculus QuestではOculus GoのSnapdragon 821よりも一世代新しいSoCであるSnapdragon 835が搭載されています。とはいっても、グラフィックス性能の向上は10-20%程度です。CPUの性能向上や省電力化も図られていますが、トラッキング処理などの負荷増もあるはずですので、そこまでの性能差は感じられないでしょう。
つまり、Snapdragonを採用したスタンドアロン型VRヘッドセットのグラフィックス性能はほとんど横並びで有り、また最新世代のスマートフォンを利用したGearVRやDayDreamの方が性能が高めである、と言えます。
とはいえ、OculusはAndroidベースの専用のOSを搭載しているのに加え、自社のフレームワークやコンテンツを最適化できる環境にありますから、単にサードバーティーが作ったコンテンツを並べている他のプラットフォームに比べて、実質的に引き出せる性能は高くなっている可能性があります。
特にPC向けのOculus Riftで採用されているAsynchronous Space Warpと呼ばれる技術は、今でも他のVRプラットフォームでは真似できていないので、こういった技術が採用されていれば体験にも差が出る可能性はありそうです。
対応ソフト
Oculus QuestはOculus GoやGear VRとストアを共有しており、Oculus Questではこれらのソフトが動作します。しかしながら、既存のソフトは全て3DoF向けのソフトであり、Oculus Questの進化を引き出すことはできません。Oculus QuestにはOculus Quest対応ソフトが必要になると考えるべきです。とはいえ、Oculus QuestとOculus Goの違いはほとんどがUnreal EngineやUnityといったエンジンが吸収します。開発者はエンジンを更新して出し直せばいいわけですから、時間が解決する問題と言えます。
クロスバイ
またOculus RiftシリーズとOculus Questはクロスバイにも対応します。Oculus Rift版で購入したソフトは、Oculus Quest版があれば、Oculus Questでも買い直さずに利用することができます。ただし、Oculus Quest版があれば、というのがくせ者です。Oculus Rift版のソフトをOculus Questに移植するのはそう簡単にはいきません。
Oculus RiftのPC推奨スペックとOculus QuestのSoC性能には5倍以上の差がありますから、開発者はOculus RiftのソフトをOqulus Questに移植するのに当たって、Oculus Questの低い性能に合わせてグラフィックスの設定を変更したり、表示する3Dモデルを簡素化する必要が出てきます。
このような事情もあり、既存のOculus Riftの中でクロスバイに対応するのは、移植コストをかけられるOculus自身がリリースするソフトや、もともとグラフィックス性能をあまり必要としないような一部のソフトに限られる可能性が高いです。このあたりはOculus Questの普及具合によっても変わってくるでしょう。
今後発売されるソフトについては、はじめからOculus RiftとOculus Questの両対応を視野に入れて開発されるであろうことから、クロスバイへの対応はそこまで問題にならないでしょう。
まとめると、Oculus Questの対応ソフトは時間とともに増えていくことは期待できるものの、今のOculus Riftと同じぐらい充実するにはかなり時間を要すると予想できます。
PC VRとの連携
スタンドアロンヘッドセットはスマートフォン互換のSoCやOSを搭載しているが故にPC向けVR(SteamVR)のソフトをそのまま動かすことはできません。一方で、PCから無線で映像を伝送して使うことができれば、完全ケーブルレスの無敵のVRヘッドセットになり得ます。
HTCは2019年頭のCESにて新しいVRヘッドセットであるVive Cosmosを発表しました。Vive Cosmosには、PCのSteamVRと無線で接続して使うと発表されており、まさに待ち望んでいたケーブルレスVRヘッドセットと言えます。価格や発売日、スペック等まだまだ謎が多い機器ですが、完全ケーブルレスの環境が欲しい人にとって、Oculus Questに並んで魅力的な選択肢です。
Oculus Goにも有志がSteamVRと連携する仕組みを用意しているため、Oculus Questでも同様のことが将来的に出来るようになる可能性はあります。とはいえ、Vive CosmosはSteamVRを運営するValveが公式にサポートすることから、SteamVR連携の完成度はVive Cosmosの方が良くなるでしょう。
結局Oculus Questってどうなの?
まだVR機器を何も持っていないような人にとって、Oculus Questが最も有力な選択肢になるのではないでしょうか。
Oculus Goは今から買うにしては中途半端すぎます。安価ですし悪くはないのですが、スマートフォンを利用したVRと出来ることは同じであるため、手軽にVRを楽しみたいならGearVRやDaydreamVRをスマートフォンを新調したついでに楽しむ、もしくは3000円ぐらいのVRゴーグルを利用しつつ、後で上位機種を買うのが良いのではないでしょうか。その方が、後でOculus QuestやVive Cosmosような完全6DoFの上位機種を買ったとしても無駄がありません。
Mirage SoloやVIVE Focusはスマートフォンを利用したVRよりも一段上の体験が出来ますが、現時点ではそれを活かしたコンテンツがあまり充実していないため、高いお金を払った割には満足度はあまり変わらない、といった事態になりかねません。
まとめ
Oculus Questが気になる人にとって、競合になるのはOculus GoではなくVive Cosmosになるのかもしれません。しかしながら、Vive CosmosはPC+SteamVRの環境があってこそ真価を発揮するデバイスです。SteamVRのソフトはPC上で動かすため、高価なPCがないとまともにコンテンツを楽しむことはできません。一応Vive Focus用のタイトルも動作すると言われていますが、魅力的なコンテンツは現時点では少ない上に6DoFのコントローラが生きることは無いでしょう。
Oculus Questはちゃんと単体で楽しめるコンテンツをOculus自身が用意してくれますし、価格も手ごろですので、安心して買えるのでは無いかと思います。とはいえ、単体で動作するコンテンツのグラフィックス品質には期待は禁物です。
ディスカッション
コメント一覧
いつも参考にさせていただいています。
Quest2は素晴らしいです、後はポジショントラッカーを追加してのフルボディートラッキングさえできればと思います。
(欲を言えば視野ももう少し…なかなか難しいのかな)
ところで、Win8環境でRIFTCV1を普段使っているのですが、一度Win10環境で試した時に、
HMDにデスクトップを表示させる機能がオキュラスホーム?(というかHMD内の起動画面)に備わっていて驚きました。
この普遍的な機能、Win8でも以前は使えたようです。
スチームVRで出来た記憶もあるのですが、いつの間にかなくなっているように思います。
どうしても普段遣い環境をWin8で維持したいので、OVRなどを買おうと思っていたのですが、
もし、Win8でもこの機能を有効化する方法があるなら買わずにそちらを使いたいのですが、
なにかご存じないでしょうか。
やはりOVRなどを買うしか無いのでしょうか。
Oculusは2018年6月からWindows8を動作保証外にしているようですね。おそらくそのタイミングで使えなくなったのではないでしょうか。
https://www.oculus.com/blog/updating-rifts-minimum-and-recommended-spec-os-to-windows-10/
BigScreen(https://www.oculus.com/experiences/rift/1018613041536358/)やVirtualDesktop(https://www.oculus.com/experiences/rift/911715622255585/)を使えばRift+Windows8の環境でも仮想デスクトップが使えるとは思いますが、個人的にはこれを機にWindows10に無料アップグレードしてしまうのをお勧めします。
その理由と具体的な方法は以下の記事にまとめてますので、一度見ていただければと思います。
https://vr-maniacs.com/entry/why-windows10-for-vr/