普通のゲームをVR内で3D化するHelix Visionを使いこなす
Helix Visionを使うと一般の3DゲームをVR空間内で3D化することができます。VR非対応の多くのアプリに適用できる一方で、やや使い方に癖があるので、使う上でのコツも併せて紹介します。
Helix Visionはどんなアプリ?
Helix Visionは様々な3DゲームをVR空間内において立体視で遊べるようにするユーティリティです。Steamで$4.99で販売されており、SteamVR経由で動作します。SteamVR対応であるため、Oculus RiftシリーズやVIVEシリーズなどほとんどのPC VR対応機器で利用可能です。
中身は3D Fix Managerと呼ばれるフリーソフトをVR向けに拡張したランチャーアプリと、VR空間を作り出すUnityベースの表示アプリから構成されています。
有料のアプリになっていますので、購入の際は返品可能な2時間の間にじっくりと動作確認をすることをオススメします。
(追記:現在はデモ版を使って動作確認できます。)
類似アプリ・MODとの違いは?
Helix Visonは3Dゲームを立体視対応にするだけであって、完全にVR化するものではない点に注意が必要です。
一般的なVRの場合
一般的にVR対応というと、「ゲーム内における視点カメラ」と「VRヘッドセットの向きや位置」が連動するような動作が期待されます。頭を前に動かすと映像が拡大されるのはもちろんのこと、頭を横に動かせば、手前の遮蔽物と奥の物体との位置関係が変わって、全く変わった映像が見られる、ということです。
VR化ソフトとして代表的なものにはVorpXと呼ばれるものがあります。これはソフトの動作を外部から変更し、視点カメラを頭の位置に自然に連動させるような改造を施しています。これが本来のVR化です。
Helix Visionの場合
それに対して、Helix Visonは頭を横にずらしても景色は大きく変わりません。映像そのものは奥行きを伴って立体的に見えますが、その映像が単に横にずれるだけです。
つまり、Helix VisonはVR空間内に3Dテレビを用意し、その中で動かすゲームを3DTV対応させるものであると言えます。
別の言い方をすると、Helix Visionを使ってもVR空間内を自由に動けるようになるわけでは無く、座って遊ぶ分にはVRっぽく遊べるようになる、と考えておけば良いと思います。
Helix Visionの仕組み
Helix Visionは、NVIDIA社が開発した3D Visionと呼ばれる立体視技術をベースにしています。
3D Visionとは
3D Visionは、対応ディスプレイと専用の3Dメガネを用意し、ディスプレイがメガネと同期しながら、右目用と左目用の映像を切り替えることで立体視を実現する技術です。ちょっと前に家庭用テレビで流行った立体視技術の中で、アクティブシャッター式と呼ばれる方式とほぼ同じです。
NVIDIAはGPUを手がける会社ですから、PC上で3D描画を行う上での全ての情報は、NVIDIAが提供するドライバが全て把握しています。この把握している情報を元にして、ドライバは右目・左目用に別々の映像を用意することができます。これを前述のハードウェアと組み合わせて立体視を実現するのが3D Visionです。
3D VisionとHelix Visionの関係
3D Visionは対応ディスプレイと専用の3Dメガネが必要でした。Helix VisionはこれをVRヘッドセットに置き換えるものです。
Helix Visionのビューワーアプリ(Katanga)は3D Visionが作り出した映像をフックして取り出し、UnityのVR機能と統合することでVR表示を可能にしています。
Helix VisionとHelix Modコミュニティ
3D Visionがドライバレベルで動作しているからといって、全てのゲームで問題なく立体視ができるわけではありません。多くのゲームでは3D描画を行った後で、その絵に対して2D空間でエフェクト等の加工(スクリーンスペースエフェクト)をすることがあり、そういった描画技術は立体視を阻害します。
このような問題を対処するために、ゲームの動作を外部から変更するためにMODと呼ばれる仕組みを使います。3D VisionではHelix Modと呼ばれるコミュニティーがあり、ここで日々立体視対応のMODが開発・配布されています。主に海外のゲームが中心ではあるのですが、海外でも有名なソフトであれば対応している物もあります。
セットアップと環境設定
ここまで読み進めると予想がつくと思いますが、Helix VisionはNVIDIA製のGPU専用です。AMDやIntel製のGPUでは動作しませんので注意してください。
また最新のWindows 10 (1903以降)の場合、特定のバージョンのグラフィックスドライバを使うのが推奨されています。最新のものを使っても大抵は問題ないのですが、一部クラッシュして動作しないゲームがあるので、最初から指定されたバージョンを使っておくのが無難です。
VR環境が整ってさえいれば、基本的なセットアップはSteamからインストールするだけで完了します。
指定されたドライバをインストールする方法
推奨バージョンのグラフィックスドライバが入っていない場合、HelixVisionの起動時にインストールするかを聞かれます。前述の通り無視しても問題ありませんが、ゲームがうまく起動しない場合には指定通りインストールすると良いでしょう。
最近のグラフィックスドライバには3D Visionのドライバが収録されていないため、推奨ではない最新のグラフィックスドライバを使っている場合は3D Visionのドライバを追加インストールするかを聞かれます。(グラフィックスドライバが新しすぎる場合はうまく動作しない場合があります)
また、グラフィックスドライバには従来通りのStandard版と新しい枠組みで作られたDCH版がありますが、HelixVisionではStandard版を使うことが推奨されています。(DCH版でも動作はしますが、起動が遅くなったりするとのことです。)
グラフィックスドライバのバージョンダウンもHelixVision内から行えますが、うまくいかない場合は、Display Driver Uninstaller(DDU)を使ってアンインストールすると良いです。
使い方
Helix Visionには、VRでの動作が確認されている「VR対応のゲーム」とVRでの動作が確認されていない「3D Vision用ゲーム」の二種類があります。日本産のゲームはほとんど後者になります。
VR対応ゲームの場合
対応ゲームの中で、Steamにて序盤が無料で配布されているLife is strangeを例に挙げます。Life is strangeは、世界で数々の賞を受賞し、日本語化もされているアドベンチャーゲームです。
- Steamから通常通りLife is strangeをインストールします
- Helix Visionを起動し、左側の一覧から「Life is strange」が白い文字で表示されていることを確認してクリックします。
- Install 3D Fixを選んでしばらく待ちます。(3D化に伴う不具合を修正するMODが自動的にダウンロード・適用されます)
- Play in VRを選びます。
これでLife is strangeがVRモードで起動します。他の対応ゲームも同様にして起動することが出来ます。
こうやって起動すると、デスクトップには3D Visionモードで起動したときの画面が、そのまま表示されます。赤青メガネのような色がにじんだ表示になりますが、それが正常です。HMD側には通常の色で表示されています。
3D Vision用ゲームの場合
Helix Vision作者がVRでの動作を確認しているゲーム以外にも、もともと3D Visionで立体視ができていたゲームはVRで動作する可能性があります。次に紹介する方法で、そういったゲームをVRで起動することが出来ます。
ここでは3D Visionの互換性が高いとNVIDIAが認めていて、Redditでも動作報告のあるSekiroを例に挙げます。Sekiroは2019年に発売され、死にゲーとも呼ばれる骨太のアクションゲームです。
- Steamから通常通りSekiroをインストールします
- Helix Visionを起動し、「Setting」→「Application Settings」→「Use program for」を順に選んで「Virtual Reality」となっているところを「3D Vision」を選択します。このとき本当に良いか確認されるので「OK」を押します。
- 標準対応アプリの場合と同様に、左側の一覧から「Sekiro: Shadows Die Twice」が白い文字で表示されていることを確認してクリックします。
- Install 3D Fixを選んでしばらく待ちます。
- Play in VRを選びます。
ちなみに3D Visionモードでアプリケーションを起動している時にAlt+F1でスクリーンショットを撮ると、立体視対応のjps形式で保存されます。この画像ファイルは NVIDIA 3D Visionフォトビューアーで開くことができ、結構凝ったことになっています。
このような状況から、NVIDIAはこの分野に結構力を入れていたことがうかがい知れます。
VR化出来ないものもある
3D Vision対応ゲームの中でもVR化できない物もあります。例えば、英雄伝説 閃の軌跡は3D Visionでの動作は問題ないものの、VR表示用のビューアプロセスがゲームに接続できませんでした。Helix Visionのフォーラムによると、DirectX9で特殊な造りをしているゲームは現状非対応とのことでした。(対応予定はあるようです。)
DirectX11/12世代の最近のゲームであれば、VR化できる可能性は高いようです。
3D Vision非対応ゲームの場合
NVIDIAの3D Visionサポートリスト(ドライバに内蔵されている個別プロファイル)に含まれていなかったり、3D Fix Managerの一覧に載っていないゲームであっても、設定を追加すればどんなゲームも3D Vision・VR対応させられる可能性はあります。上級者向けにはなってしまいますが、やり方を紹介しておきます。
ここでは、日本で根強い人気があるものの、海外ではあまりメジャーでは無い新しめのゲームであるライザのアトリエを例に挙げます。ライザのアトリエは、キャラクターデザインに定評があり20年以上続くJRPGアトリエシリーズの最新作でです。
起動準備
- Steamから通常通りライザのアトリエをインストールします
- Helix Visionを起動し「Use program for」を「3D Vision」に変更します。※「3D Vision用ゲームの場合」と同じです。
- 左側のリストの下部から「New」を選んで新しいプロファイルを作成します。
- Edit Profileタブからプロファイルを以下のように設定します。
- Title and State of the 3D Fix
- Game Title: Atelier Ryza と入力
- Game Launch
- Game Launcher Exe: Atelier_Ryza.exe と入力 ※「Pick File」から
C:\Program Files (x86)\Steam\steamapps\common\Atelier Ryza
を選んでも良いです
- Game Launcher Exe: Atelier_Ryza.exe と入力 ※「Pick File」から
- Title and State of the 3D Fix
- 右下の「Save Changes」ボタンで設定を保存します
- 3D Fixタブからステレオ3Dの設定を行います。
- Driver Profile Settings:
- Stereo 3D Settings
- StereoProfile: Yes を選択
- Stereo 3D Settings
- Driver Profile Settings:
- 右下の「Save」ボタンで設定を保存します
- PlayタブからInstall 3D Wrapperを選択します
- このとき3D Wrapperのタイプを聞かれるので、ライザのアトリエが利用しているDirectX 11用の「Install 3dmigoto x64」を選択します
- 3dmigotoは、ゲームのグラフィックス設定を注入したり、3DVisionの対応データベースを書き換えたりするためのユーティリティです。
- 右上の「3D」と大きく書かれているスイッチをオンにします。
- 3D Visionをグローバルに有効化するためのスイッチです
これでライザのアトリエをVRで起動する準備が整ったのですが、このままだと若干絵が破綻しています。そこで次のようにして立体視に都合の悪いエフェクトを無効にします。
3D描画の調整
C:\Program Files (x86)\Steam\steamapps\common\Atelier Ryza
以下にあるd3dx.ini
をメモ帳などのエディタで開きます。- このファイルは3dmigotoの設定ファイルになっています。
d3dx.ini
の末尾に以下の内容を追記します。- ShaderOverride1は左右の映像の色味が異なる問題を修正します。(SSAO?を無効にします)
- ShaderOverride2は影を無効にします。
- 若干見た目は不自然になりますが、影は有効のままでもそれなりに立体的に見えます。
[ShaderOverride1]
Hash=cdcc95824bb53704
Handling=skip
[ShaderOverride2]
Hash=006f69e7dabdada9
Handling=skip
起動方法とまとめ
最後にPlay in VRをボタンを押して起動、と言いたいところなのですが、不具合なのかこのボタンからVRモードで起動できません。
- 代わりに3D fix Manager右上にある「3D」のスイッチを有効(右側)にした状態で、
C:\Program Files (x86)\Steam\steamapps\common\HelixVision\Tools\Katanga
以下にあるkatanga.exe
を直接起動します。 - katanga.exeを起動するとゲームのexeファイルの場所を聞かれるので
C:\Program Files (x86)\Steam\steamapps\common\Atelier Ryza\Atelier_Ryza.exe
を選びます。(インストール先を変えてない場合。変えている場合は、以下適宜読み替えて下さい)- この操作を自動化する場合は
"C:\Program Files (x86)\Steam\steamapps\common\HelixVision\Tools\Katanga\katanga.exe" -nostartupmovies --game-path "C:\Program Files (x86)\Steam\steamapps\common\Atelier Ryza\Atelier_Ryza.exe"
と書いたbatファイルを用意すると良いでしょう。
- この操作を自動化する場合は
かなり長い手順になりましたが、これでライザのアトリエがVRで起動しました。他の大抵のゲームも同じ方法が使えるはずです。
ただ、見た目がおかしくなる場合はd3dx.ini
による修正を自力で見つけなければいけません。やり方は3Dmigotoのwikiに書いてありますが、需要があれば説明を追記したいと思います。
細かい使い方
立体視の「強さ」を調整する
デフォルト設定では立体視のための視差が大きすぎて目が疲れたり、立体的に見えづらい場合があります。そのような場合は「Settings」→「Nvidia 3D Settings」→「3D Depth / 3D Vision Shutter Galsses」の項目を調整します。
ライザのアトリエの場合は3D depthが30%、3D depth multiplierが0.2程度が丁度良いと感じました。この項目はNVIDIAコントロールパネルの「ステレオスコピック3D」で設定できる内容と同じです。
VR内のスクリーンを調整する
ゲームの操作はゲーム本来の操作に準じますので、ゲームパッドやキーボード等を使うことになります。VRコントローラはVR内のスクリーンを調整するのに使います。
スティックやタッチパッドを上下方向に動かすと、スクリーンの大きさが変わるので、丁度良い大きさに調整してみて下さい。
注意:3D Visionは2020年3月でサポートが切れている
ゲームコミュニティで根強い人気があり活発に情報交換もされている3D Visionですが、残念ながらNVIDIAから2020年3月以降は積極的にサポートは行わない旨のアナウンスがされています。
実際最新のグラフィックスドライバには3D Visionのドライバは収録されなくなりました。前述のとおり、Helix Visionが別途自動的にインストールしてくれますが、新しいグラフィックスドライバのインストーラにとっては残骸扱いになるため、グラフィックスドライバを入れるたびに削除されてしまいます。
また新しめのグラフィックスドライバでは3D Visionを使うと不具合が多いようですので、やはりいずれは動作しなくなることを覚悟しておいた方が良いでしょう。
最後に
NVIDIAが持つ3Dテレビ向け立体視技術を使って、一般の3DゲームをVR空間で立体視対応にするHelix Visionの使い方を紹介しました。
VRではルームスケールやタッチコントローラに対応したゲームを遊ぶのが醍醐味ですが、そればっかりでも疲れるので、たまには立体視できるだけの一般ゲームを遊んでみるのも良いのでは無いかと思います。
3D Visionはドライバレベルでゲームに介入するため、これを利用するHelix Vision非常に強力なツールになっています。VRの楽しみ方が大分広がりそうなだけに、NVIDIAが3D Visionのサポートを終了するのは非常に残念です。VRの発展により3Dディスプレイ技術は不要になっていくだろうとの判断だとは思うのですが、これはこれで価値があります。VRを3D表示デバイスと見直すと過去最高の普及率になるはずです。
立体視のこういった楽しみ方が広がって、NVIDIAが方針を見直してくれることを祈るばかりです。
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コメント一覧
この記事を参考にしてメタルギアサヴァイブを3D化することに成功しました。その手順などを私のブログで記事にしようと思います。参考にした記事としてこの記事を紹介しリンクを貼りたいのですが、よろしいでしょうか?
わざわざご連絡ありがとうございます。全く問題ありません。