Oculus Rift Sの変更点まとめ。スペックの詳細比較や概要など

2019年5月1日

PC向けVRヘッドセットであるOculus Riftが改良され、Oculus Rift Sとして置き換わりました。この記事ではスペックの比較とどう変わったのかを解説・考察していきます。

主な変更点

Oculus RiftとOculus Rift Sのスペックを比較すると以下のようになります。

Oculus Rift S Oculus Rift
解像度 2560×1440
(1つをパネルを両目に割り当て)
2160×1200
(1080×1200を両目用にそれぞれ1つずつ割り当て)
ピクセル密度 約600ppi 456ppi
表示デバイス 液晶 AMOLED(ペンタイル)
リフレッシュレート 80Hz 90Hz
視野角 約 115° 110°
光学系 フレネルレンズ(GodRay低減)
スクリーンドア効果(網目感)低減フィルタ
フレネルレンズ
IPD 調整 ソフトウェア(ハードは65mm) ハードウェア(58-71mm)
トラッキング 外部センサ不要
(In side-out)
1から3つの外部センサを利用
(Out side-in)
ヘッドフォン 内蔵
(ヘッドフォンジャックにより市販のイヤホンを利用可能)
内蔵
(専用オプションのみ付け替え可能)
接続 DisplayPort1.2, USB 3.0
(miniDisplayPort変換アダプタ付属)
HDMI 1.3, USB 3.0 x3, USB 2.0 x1
コントローラ Oculus Touch 改良版
(外部センサ不要対応版)
Oculus Touch
外部
カメラ
有り
(Passthrough+機能で外界を確認可能)
無し
重量 480g?
(重心は改良)
470g
発売日 2019年5月21日 2016年3月28日
価格 49,800円 45,000円
(セットで合計約10万円から徐々に値下がりした最終価格)

Oculus Rift SはOculus Riftの完全な置き換えであり、公式ストアではもうOculus Riftを買うことはできません。

表示パネルの変更

表示パネルがSamsung製の有機ELから一般的な液晶に変更されています。これには良い面と悪い面がありますが、どちらかというとコスト削減が目的で有り悪い面の方が多いです。

網目感の低減

Oculus RiftではSamsung製の有機ELブランドであるAM-OLEDパネルを採用していました。このパネルはSamsung製のスマートフォンで幅広く利用されているのですが、ドットの配置が独特です。スマートフォンのような小さい画面をある程度離れて使う分には気にならないのですが、VRのようにレンズで拡大して使う際にはその独特なドット配置が問題になり、網目を感じられます。(スクリーンドア効果)Oculus RiftでもAMOLED特有の網目感はそれなりに感じられていました。

Oculus Rift Sでは一般的な液晶に変更されたのに伴い、AMOLED独特の網目感は無くなっています。ただ解像度はそこまで高いわけでは無いため、スクリーンドア効果自体は感じられるままです。

リフレッシュレートの低下

PC系のハイエンド系VRではリフレッシュレート(画面の更新頻度)が90Hz(毎秒90回)であることが一般的であり、Oculus Riftも90Hzでした。Ouclus Rift Sでは80Hzに低下しています。最も10Hz程度の違いであれば、ほとんど違いが無く普通にプレイしていても気づく事は無いです。

一方でOculusはASWと呼ばれるリフレッシュレートを下げつつその違和感をなくす技術を持っていますが、この技術を利用する際にはリフレッシュレートはちょうど半分になります。つまりASWを利用するときのリフレッシュレートは、Oculus Riftでは45HzだったのがOculus Riftでは40Hzになります。リフレッシュレートが低いと増減がより目立ちやすくなるため、その辺の影響は若干心配されるところです。

リフレッシュレートの低下に伴い、1フレームを描画するのにかけられる時間が1/90秒から1/80秒に増えています。その分PCに必要な性能も若干下がりますが、解像度は上がっているので、実質的にはトントンです。

黒浮きの発生

液晶と有機ELの大きな違いはバックライトの有無です。有機ELは表示パネルのピクセルそのものが発光しているのに対して、液晶では黒を表示していても後ろからバックライトで照らしています。ですので、有機ELでは真っ黒は表現できますが、液晶では表現できません。VRでは暗闇を表現したりすることも多いため、やや残念な変更と言えます。

一方で、Oculus Riftはフレネルレンズを採用していたため、真っ黒な画面の中に部分的に白い部分があるとそれがにじんで光の筋が出てしまう欠点(God Ray)もありました。Oculus Rift Sではこの点が改善されているとのことですので、暗闇の表現、という観点ではトントンなのかもしれません。

装着感の向上

もともとOculus Riftの装着感はHTC Vive等と比べて良い方でしたが、がOculus Rift Sではさらに良くなっています。

装着方式の変更

Oculus Riftでは、マジックテープとバネで頭に固定する方式でしたが、Oculus Rift SではPlayStation VRやWindows Mixed Realityのヘッドセットに見られるようなダイヤル式の調整機構に変更されており、頭を締め付ける強さを自由に調整できるようになっています。そして、後頭部のバンドにはクッションが追加されており、装着感はよりソフトになっています。

メガネ対応

Oculus Riftではメガネをつけながら装着しようとすると、メガネとOculus Riftのレンズがぶつかり、傷が付く恐れがありました。また、最適な体験を得るには、コンタクトレンズを使用するか、リーフツアラーのような別売りの度付きレンズに付け替える必要がありました。

Oculus Rift Sではレンズの奥行き位置が可動式になり、ヘッドセットのレンズを奥に移動させ、メガネと干渉しにくくなるように設定できるようになりました。裸眼の場合はレンズを手前に設定できるので、この機構によって視野角を損なうこともありません。

重量

装着方式の変更、クッションの追加、液晶パネルの変更によるバックライト機構の追加などによって、Oculus Rift SはOculus Riftに比べてやや重くなっています。一方で後頭部のバンド部分が重りとなって重心が改良されており、装着感としてはより軽く感じられるようになっています。

解像度の向上

Oculus Riftは今では片目1080×1200と解像度は見劣りするスペックでしたが、これが片目1280×1440相当に向上しています。とはいっても、2枚の液晶をそれぞれ両目に割り当てる方式から、1枚の液晶を両目に割り当てる方式に変更されており、実質的な解像度の向上は数字以下にはなっています。

Oculus Goと同様の方式とのことなので、体感ではそこまで向上した印象はないとの評価が多いです。

外部カメラの追加

ヘッドセットを外さなくても周囲の実世界を見ることができる機能「Passthrough+」が追加されました。

もともとOculus Riftには、周囲の障害物とぶつからないようVR空間内に柵を設置する「Oculusガーディアン機能」が搭載されていましたが、今回この外部カメラが追加されたことで、ガーディアン境界に近づくと実世界の状況がAR的に表示され、より安全にVRを体験できるようになっています。

そして、そのガーディアン境界自体の設定も実世界の映像を使って直感的に指定することが出来るようになっています。

ヘッドフォンがスピーカーに

Oculus Riftでは円形のヘッドフォンが耳元まで棒で飛び出しており、耳元で音が鳴っている感じを印象づけるのに貢献していました。

Oculus Rift Sでは耳の付近にある穴からから単に音が出るだけになりました。音質や音漏れのしやすさとしては大幅劣化ですが、その代わり装着のしやすさは若干向上しているとは言えます。とはいえ、イヤホンをつける前提だと、結局は装着感も悪化していると言えるのかもしれません。このあたりはオプションでなんとかして欲しかったところです。

Windows10の必須化

Oculus RiftはWindows7とWindows10に対応していましたが、Oculus Rift SではWindows10が必須になりました。

必要なグラフィックス性能はGeForceGTX 960/1050Ti以上と変更はありません。

PCとの映像伝送がDisplayPort経由に

Oculus RiftはHDMIにより映像を伝送していましたが、Oculus Rift SではDisplayPortを使うようになりました。PCにはHDMIポートが無かったりあっても1つだけだったりするので地味にありがたい変更です。

トラッキング方式の変更と外部センサ不要化

これがOculus Rift Sにおける最大の変更点です。

Oculus RiftはOculus DK1、DK2、CV1と進化するか過程でトラッキングの仕組みを変えていませんでした。仕組みを建て増ししていた結果、USB接続の外部センサが3つも必要であり、これは明らかな欠点をでした。ライバルのHTC Viveでは外部センサの設置が必要なものの、電源供給だけすれば良いのに対して、Oculus RiftではPCとセンサの接続の取り回しを考える必要があり、また機材の制約も厳しいとあってセットアップのハードルは大分高めでした。このあたりの大変さは以下の記事を読むと分かります。

これがWindows Mixed Realityと同様に、外部センサの設置が一切不要になり、セットアップがかなり簡単になりました。また、Windows Mixed Realityと比べてコントローラのトラッキングも向上しており、Windows MRのコントローラが苦手とする手を後ろに回した状況のトラッキングもほぼ問題なく行えます。

ただし、ヘッドセットのカメラからコントローラの位置を検出する都合上、どうしても死角は生じます。なので、突き詰めると外部センサを必要とする旧方式の方がトラッキング性能は高いのですが、セットアップの簡単さを天秤にかけると劣化ではなく改良であると言えます。

コントローラの簡易化

Oculus Rift SにはOclus Riftと同様にOculus Touchの新トラッキング方式対応版が付属します。ヘッドセットのセンサからトラッキングするためにコントローラ側の輪の位置が変更されているのが、目につく大きな変更です。このコントローラはOculus Questと共通です。

まとめと考察

Oculus Rift Sの液晶パネルや光学系は、前世代のOculus Riftや同時発売のOculus Questではなく、Oculus Goに近いものになりました。このことからOculus Rift Sは、Oculus Riftのメジャーアップデートではなくマイナーチェンジであり、Windows Mixed Realityに近づけたものであると言えます。

特にセンサー設置の困難さは、Oculus(Facebook)がVRを一般人にも普及させていく戦略の障害になっていました。この障害をなくすことはOculusの中でも急務であったと予想します。そこでHTC Vive(初代)やWindows Mixed Realityと戦える程度の製品を投入することで改善し、その上で優先度の低いスペックに関しては敢えて劣化し、コストを優先させる道を選びました。

そういった意味では、VRの入門者がPCのVRを導入するにあたって、Oculus Rift Sが他の製品と比べるとバランスの取れた「堅い」製品であることは間違いありません。一方で、PCのVRの利用歴が長く、より良い体験を求める人にとっては物足りない、ということにどうしてもなってしまいます。

HTC/Valve陣営が年々スペックを改善しハイエンドを狙っていく戦略を進めていますが、OculusはHalf Domeと呼ばれる次世代のハイエンド機の開発を中止しています。Oculus本命のOculus Questの動向次第ではありますが、今後もPCのVRにおいてOculusが攻めに転ずる可能性は低いように思います。

ということを踏まえると、Oculus Rift Sを買って、Oculus StoreでOculus Rift S用のタイトルを買って、ソフトライブラリーを充実させていくとどうなるのか、と色々考えさせられる製品です。Oculus Questを持っていればクロスバイ(ソフトライブラリの共有)がメリットになる物のどれぐらいのソフトでサポートされるのかは不透明です。Oculus Rift Sだけを持っている場合はSteamVRでソフトをそろえていくべきなのかもしれません。。

Oculus Riftから買い換えるべき?

Oculus Riftを既に持っている人がOculus Rift Sに買い換えるべきかというと、価格に見合う向上が体感できるか難しいところです。

最大の変更点はトラッキング用センサーが不要になった点ですから、現状問題なくセットアップできているのであれば、買い換えてもうれしいことはあまりありません。Passthrough+は障害物を気にせず集中してプレイできるメリットをもたらしますが、買い換えの理由としては弱いです。

液晶と光学系の変更もスクリーンドア効果低減ももたらしますが、解像度は初代Windows Mixed Realityの程度の向上ですから、劇的な改善とまでは言えません。HTC ViveとHTC Vive Proの差以下となると、微々たるものです。

表示パネルは同時発売のOculus Questの方が性能が高いことから、Oculus RiftユーザはOculus Rift Sを買うのでは無くてOuculus Questの方を買ってね、というメッセージがスペックに込められているようにも思います。

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