VIVE Proは買いなのか
2018年4月6日に発売されたVIVE Proの改善点についてまとめつつ、買いなのか?を考察していきます。
4月23日にベースステーション 2.0 を含むフルセットが発売されました。この記事はアップグレードキットのみが販売された頃のものを加筆修正しています。
主な変更点
VIVEとVIVE Proのスペックを比較すると以下のようになります。
HTC Vive Pro | HTC Vive (改良版) |
|
---|---|---|
表示デバイス | AMOLED | AMOLED |
解像度 | 2,880 x 1,600 (615 PPI) | 2,160 x 1,200 (448 PPI) |
リフレッシュレート | 90Hz | 90Hz |
視野角 | 110 度 | 110 度 |
接続端子 | DisplayPort, USB 3.0(Type-C) | HDMI, DisplayPort, USB 3.0 |
ヘッドフォン | 内蔵 | イヤフォン外付け |
マイク | 内蔵(2個) | 内蔵(1個) |
フロントカメラ | 2個 | 1個 |
重量(調査中) | 820g? | 468g 850g?(オーディオストラップ込) |
価格 | 101,520 円 (アップグレードキット:HMD単体版) 143,640 円 (スターターキット:コントローラ・ベースステーション初期型同梱版) 175,910 円 (コントローラ・ベースステーション 2.0 同梱版) |
69,390 円 (コントローラ・ベースステーション同梱) |
装着感の向上
VIVEのヘッドマウントディスプレイはOculus Riftに比べて重く、後のマイナーバージョンアップで軽くなったものの、重心を含めた全体的な装着感ではOculus Riftに劣る部分が多々ありました。これがVIVE Proでは根本的に見直されて大分改善されています。
肌に接するクッション部分も大分良くなっており、Oculus Riftと同等かそれ以上の装着感になっていると感じます。
解像度の向上
HTC VIVEとOculus Riftはともに2,160 x 1,200の解像度を持ち、この仕様がPCにおけるVRの事実上の標準でした。ここがVIVE Proにより強化され、VRヘッドセットの根幹部分である表示性能において互角だったのが、VIVE陣営が頭一つ飛び出ることなります。
ピクセルの密度は37%向上し、ピクセル間の隙間によって生じる網目感が低減されます。しかしながら、ペンタイル配列のAMOLDパネルを引き続き採用しているため網目感が完全に無くなるわけではありません。視力が良い人は、隙間がより気になるもしれませんし、視力が悪い人は隙間に気づきにくくなるかもしれません。この改善の感じ方にはある程度の個人差があると予想します。
音響性能の向上
VIVEではヘッドフォン端子のみがヘッドセットに用意され、そこに別途イヤフォンを差し込み利用するようになっていました。ユーザの選択肢は広がるものの、性能的には少し物足りなく、また物理的な干渉や装着の手間の問題でヘッドフォンを利用するのは困難でした。デラックスオーディオストラップと呼ばれる強化オプションが用意されていましたが、12,500円と高価な上に、音質・装着感ともに完璧と言えるものではありませんでした。
VIVE ProではOculus Riftのようにヘッドフォンがヘッドマウントディスプレイ部に内蔵されました。そして、アンプ部分から強化されており、ホワイトノイズを低減しつつ、より迫力のある没入感の高い音声を楽しめるようになりました。
ヘッドフォン部のスピーカードライバーも高品質な物になり、デジタル・アナログ変換(DAC)部分も含めてハイレゾ対応がされています。VRにおいてハイレゾ対応は意味がないと思われがちですが、実は重要です。3Dオーディオでは残響・反射音などで標準的な可聴域以上の周波数帯がシミュレーションにより生成されますから、ハイレゾ部分の強化は没入感を高めるのに有効に働きます。
このように、VIVE Proでは音響がかなり強化されており、VIVEにデラックスオーディオストラップを追加した状態と比べても、大きな差があります。
低音が若干弱めにも感じられますが、そこはOculus Riftも同様の傾向があり、3Dの立体音響に適したチューニングがされていることが理由と予想します。(不具合ではないかとの指摘もありますが公式なアナウンスはまだありません。)
また静かな環境で体験できたら詳しい比較をしたいと思いますが、Oculus Riftに追いついてきたと言えるのではないでしょうか。
PCとの接続方法の変更
VIVEにはHDMIとDisplayPortの2種類の映像入力端子が用意されていましたが、VIVE Proでは解像度の向上にともないDisplayPortのみになりました。PCとの接続だけで無く、ヘッドマウントディスプレイ部分とリンクボックスの間のケーブルもHDMIからDisplayPort接続になっています。(実際には複数の接続をまとめた独自ケーブルになっているため中の伝送方式は予測です。)
VIVE Proの解像度・リフレッシュレートを伝送しようとするとHDMI1.4では足りない一方でHDMI 2.0に対応した環境はまだまだ少ないですから、DisplayPortのみになったのは自然な変更です。
HDMIはDisplayPortに比べて外部からのノイズにも弱いため、DisplayPort化によりケーブルの延長時などにも安定しやすくなりました。またPCの貴重なHDMIポートを消費せずに済みますから、細かいながらも嬉しい改善と言えるでしょう。
無線伝送オプションへの正式対応
VIVEではTP Castと呼ばれる別のサードパーティー会社からワイヤレスアダプタが販売されていました。これはHTC社のサポートする公式オプションの扱いである物の、後付けであるためセットアップや装着感の面ではベストな形ではありませんでした。
これがVIVE Proでは、無線化を考慮した上で設計され、ワイヤレスアダプタもHTCから発売されるようになりました。現時点では未発売ですが、取り回しや使い勝手の面でも改善が期待されます。
しかしながら、残念なことにこのワイアレスアダプタは技適認証が通らず日本での発売が見送られることになりました。個人輸入で購入し自己責任で利用することは可能ですが、外に電波が漏れないよう適切な遮蔽を行わないと、電波法に違反することになりますので注意して下さい。
アップグレードキットに含まれるものは?
2018年4月初旬時点では、VIVE Proはアップグレードキットの購入のみで入手できました。トラッキングのために設置するベースステーション(Lighthouseセンサー)や、VIVEコントローラは別途用意する必要があります。
その名の通り、既存のVIVEユーザがヘッドマウントディスプレイ部分をアップグレードしたいときに購入するもので、VIVEを持っていないユーザの事は考慮されていません。
VIVEを持っていない場合、ベースステーションとVIVEコントローラがが付属する同梱版を買う必要があります。
フルセット版に同梱される物は進化した?
ベースステーション
スターターキットではない高い方の同梱セットには、通常のVIVEに付属するベースステーション1.0の後継版であるベースステーション2.0がVIVE Proに付属しています。ベースステーション2.0は1.0に比べて以下の改善がされています。
- 小型化・軽量化
- 静音化
- ベースステーションはLightHouse(灯台)と呼ばれる技術を使っており、灯台のように中に入っているモーターで部屋全体を照らしています
- このモータが音を発します
- 省電力化
- 安価かつ高信頼化
- 内蔵するモーターが二つから一つになり、安価で壊れにくくなっています
- トラッキング範囲の向上
- 日本の家屋で使う分には 1.0 でも十分な性能があります
ベースステーションの概要と動作原理については以下の記事で詳細を説明しています。
スターターキットには通常のVIVEと同じベースステーション1.0が付属します。
コントローラ
スターターキットではない高い方の同梱セットには、ベースステーション2.0にのみ対応するVIVEコントローラの改良版が付属します。しかしながら、旧VIVE付属のコントローラから目に見える改善点があるわけではありません。
次世代コントローラKnucklesは付属しない
VIVEは、モーションコントローラを含めたルームスケールVRを、一般ユーザに提供した初めてのVR機器です。VIVEの発売当時、Oculus Riftは普通のゲームパッドしか入力デバイスを提供していませんでした。
しかしながら、Oculusは後にそれを追い越す形で先進的なモーションコントローラOculus Touchを提供しました。これはVIVEコントローラが棒状の形を持ち、仮想的な物体をVR空間に持ち込むのに対し、Oculus Toushは自身の手をVR空間内で再現する、という点で先進的でした。実際にはそこまで、手の感触が得られるわけでは無く、動作には色々と制限がありましたが、それでも高い評価を受けています。
そこで、VIVEもOculus Touchと同様のコンセプトで、かつ、より自然に指の動きを検出できることを目標としたKnucklesの開発を始めました。開発は難航しているようですが、既に開発キットがゲーム開発者に配布されているようですので、こちらもそう遠くない未来に発売されると考えて良いのではないでしょうか。
そう考えると今から従来型コントローラを含むセットを新たに買うのはためらわれます。
同等の性能を持つVRヘッドセットは?
VIVE Pro発売より前に、Windows Mixed Reality対応のヘッドマウントディスプレイとしてSamsungがOdysseyと呼ばれる製品を発売しています。
Odysseyのパネル解像度も2,880 x 1,600であり、VIVE Proと全く同じです。VIVEのAMOLDパネルはSamsungから供給を受けていることから、両者の表示パネルは全く同じで無いかと言われています。
Windows Mixed RealityはSteamVRに対応していますから、VIVE向けのソフトは大体動くことが期待できます。とはいえ、コントローラのボタン配置も違いますし、ルームスケールを売りにしたVIVEと手軽さを重視したWindows Mixed Realityはトラッキング性能が大きく違いますので、過度な期待は禁物です。
また、Odysseyは日本国内では販売されていないためAmazon.com等から輸入する必要があります。定価は$599ですが、今は大体$500前後で販売されていますから、面倒さを除けば転送料金を含めても価格的には十分検討対象になり得ます。
同等の表示パネル性能を持つ製品としてOculus Questも挙げられますが、こちらはスマートフォンのSoCを使っているためグラフィックス性能は低くなっています。VIVE Proを買おうかどうか迷っている人にはあまり適さないでしょう。
Oculus Questがケーブル不要であることが気になるかもしれませんが、それならもう少しお金を出してVIVEを無線化した方が後悔が無いはずです。
パネル性能が上がるとより高いPC性能が必要になる?
VIVE Proでは解像度が2,160 x 1,200から2,880 x 1,600に向上しました。ピクセル数を比較すると78%の増加になります。そして一般的に、解像度と必要なグラフィックス性能はほぼ比例します。すなわち必要となるグラフィックス性能も78%増えると言えます。
一方でVIVE Proの推奨ハードウェア構成は、VIVEの時のGeForce 970/1060以上と要求されるグラフィックス性能は増えていません。どういうことなのでしょうか。
これは実際に表示パネルに出力される解像度と実際に3Dのレンダリングが行われる解像度が一致していないことに由来しています。つまり、PCの性能が足りなかったら3Dのレンダリングは低めの解像度で行うけども、表示出力時にはそれを2Dの画像処理で引き延ばすことができる、ということです。
画像を引き延ばしていると、VIVE Proの性能向上の恩恵を受けられないのでは無いか、と一見思えます。しかしながらそうではありません。表示パネルの解像度向上自体が、物理的に表示されるドットの隙間を目立たなくし、網目感を減らすことに寄与します。3Dレンダリングする解像度が高いと、輪郭がはっきりした描画結果が得られますが、表示パネルの解像度が高いと、その「はっきりさ」の天井も向上する効果をさらに得られることになります。
まとめると、VIVEからVIVE Proのアップグレードにあたってはグラフィックスカードの買い換えは必ずしも必要では無く、VIVEでフレームレートの低下が起きていないのであれば、そのままで網目感が減ったVR体験を手に入れることができます。しかしながら、真価を発揮するためにはGeForce 1070から1080ぐらいの性能はあった方が良い、ということになります。
グラフィックスカードの選び方についてはこちらの記事も参考にして下さい。
まとめと考察
装着感・音響といったVIVEの弱点が見事に強化され、Oculus Riftと比べた場合の弱点は完全に無くなりました。そして長所であるルームスケール環境におけるトラッキング性能はそのままに、VRのキモである表示パネルの性能が向上、と価格を除けば、死角が全くありません。
しかしながら、VIVE Proと新型のベースステーション2.0が含まれたフルセットが発売されたものの、次世代モーションコントローラのKnucklesが控えている中で、高価な投資をするのはためらわれます。
こういったジレンマの中で、VIVE Proの表示パネル性能が気になる!という人にはWindows Mixed RealityのOdysseyは悪くない選択肢です。Windows Mixed Reality専用のソフトもそれなりにありますから、あっても全く無駄になることは無いはずです。価格も$500-$600程度ですから、個人輸入に抵抗が無いなら検討してみても良いでしょう。
VIVEを既に持っている場合でも、アップグレードキットは旧VIVEの初期価格に匹敵するほど効果ですから、購入には慎重になった方が良いでしょう。網目感が完全に無くあるわけでは無いですし、現在のどんなコンテンツをどれぐらいの頻度で利用しているか、それがどれだけ重視するのか、などを考慮に入れつつ、実際に体験してから決断した方が、後悔せずに済むはずです。
結論としては、実際に試してみてから考えるべき、という普通の結論になってしまいますが、人によって視力や好みのソフト、懐事情が違うわけですから、一概に買うべき・買わないでおくべき、と言えないのは仕方が無い、それぐらいの微妙さだと私は感じました。(私は短時間の体験で色々なソフトを試したわけでは無いです。)
幸いVIVEは日本の代理店があり、体験できるところが多いですから、ネットのレビュー記事を鵜呑みにせず、価格相応の価値があるのかをちゃんと見極めてから買うことをオススメしたいと思います。
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