final E500はVRユーザにとって良い選択なのか
finalからVR/ASMRコンテンツの再生に特化したイヤホンE500が発売されました。この記事では一般的なイヤフォンや上位機種であるE2000との比較、およびVR機器との相性について感じたことをレビューします。
まずはイヤホンのコンセプトや生い立ち、スペック等について掘り下げていきます。単純に感想だけを読みたい場合は「音の印象」まで読み飛ばしてください。
どんな会社が作っている?
finalは元々ブランドの名前で、実際に製品を企画・開発・販売しているのはS’NEXTという会社でした。S’NEXTは2007年に米国の大手コネクターメーカーMolexの子会社として生まれ、2014年に独立。自社ブランドのfinalに加え、他社ブランド向け製品についても企画・開発・販売を行なってきました。
2000円程度の低価格帯から10万円以上の製品を提供することで幅広い層から支持を受け、その後2020年に自社ブランド専売に方針を転換し社名もfinalに変更するに至りました。つまり、数あるマイナーメーカーだったのが、製品の良さで一大ブランドにまで成長した珍しい経緯を持つ会社です。
中でもfinalブランドのイヤホンであるE2000/E3000シリーズは、5000円以下の価格帯の中で抜きん出た性能の提供し、非常に評判の良い製品です。
この二つはほぼ同じ価格ですが、別々のチューニングがされており、用途に応じて使い分けることが想定されていて、その点も話題になりました。両製品のAmazonレビューを見ると、それぞれがどういった評価を得ているのか具体的に良く分かると思います。
また近頃では、音響に関する知識を広めるべく音響講座というセミナーを首都圏で開くといったユニークな取り組みをされています。
E500はどんなコンセプトで作られた?
E500は、E2000/E3000の廉価版であるE1000と同じ(2000円台)価格帯で、VRコンテンツにおける3Dオーディオ技術や、バイノーラル技術で作られた音声の再現度を上げるべく作られたイヤホンです。
普通のオーディオコンテンツでは、音の定位(どこから音がなっているか錯覚させる位置)を聞き手の頭の中になるように調整しますが、3Dオーディオ技術では、頭部伝達関数をつかって頭の外の様々な位置から鳴っているように調整します。3Dオーディオの詳細はこちらも参考にして下さい。
このような調整においては、音の反響や減衰具合を微妙に調整することになり、一般的なイヤホンとは求められる特性が変わってきます。ここに着目したイヤホンがE500です。
「E500」はバイノーラル技術を用いて音の方向感を再現するゲームやVRコンテンツを再生するための新たな研究成果から生まれました。バイノーラル制作された音源特有の違和感が少なく自然な音色により、音源そのものに集中することが可能です。
従来のイヤホンやヘッドホンでバイノーラル制作されたゲームやVRなどの音源を聴くと、高音域に独特の違和感が生じることは広く知られていました。音響に携わる研究者達はこの原因について掴んではいましたが、その対策について十分な成功を収めた例はまだありませんでした。今回、2chステレオ方式で制作された音源とバイノーラル技術で制作された音源の違いの研究を行ない、新たなアプローチでその問題への対策を講じた結果、バイノーラル制作されたゲームやVRなどの音源において、制作者の意図通りの空間イメージや方向感を感じることのできるイヤホンを誕生させることができました。
finalは今後、バイノーラル制作されたゲームやVRに向けた新たな製品シリーズの開発を進めて参ります。今回のE500は名称こそEシリーズではありますが、バイノーラル技術を用いて制作された音源を自然に再生するための新たな研究成果に基づいて提案する製品シリーズの始まりだと私達自身は捉えております。
それでは実際に見ていきます。
スペック
E500がVR向きなのか?の印象を書く前に、final Eシリーズの中でE500がどういう位置付けなのか知るため各製品の比較をしてみます。finalの他製品について興味が無い方は読み飛ばして下さい。
Eシリーズには他にも上位機種のE4000/E5000がありますが、価格が違いすぎるため、比較対象からは外します。
製品名 | E500 | E1000 | E2000 | E3000 |
---|---|---|---|---|
筐体 | ABS樹脂 | アルミニウム | ステンレス | |
ドライバー | 6.4mmΦダイナミック型 | 6.4mmダイナミック型 | ||
ケーブル | OFCブラックケーブル | OFCケーブル | ||
感度 | 98 dB/mW | 102 dB/mW | 100 dB/mW | |
インピーダンス | 16Ω | |||
質量 | 15g | 12g | 14g | |
コード長 | 1.2m | |||
リモコン | なし | リモコン付きモデルを選択可能 | ||
特徴 | バイノーラルサウンドで制作された音響空間を余すところなく再現 | 低音から高音までクリアでバランスの良いサウンド。ライブで生演奏を聴いているような臨場感と音の広がり。 | 切れの良い中高音と躍動感のあるボーカル。目の前で演奏しているかのような臨場感。 | コンサート会場にいるかのような響き。広く奥行きのある空間表現と高い解像度を両立。 |
定価 | 2,020円 | 2,530円 | 4,470円 | 5,580円 |
E500は値段と同様にスペックもE1000に近くなっています。
筐体
筐体はE2000/E3000では金属なのに対し、E500/E1000はABS樹脂(プラスチック)と大きな違いがあります。
ABSは金属に比べて剛性が低いため、剛性を確保するために筐体が大きくなり質量も重くなる傾向があるようです。
一方で金属筐体だと装着時にひんやりする感覚がありますが、プラスチックの筐体ではそういうことはありません。
感度
E500の特有の仕様として、感度(能率)の値が他の製品よりも低いことが気付きます。
感度は高ければ高いほど、低いボリューム値で大きな音が鳴ります。一般的には感度は高い方が良いとされていますが、高級なイヤホンではでは音声出力側(音楽プレイヤー、ヘッドフォンアンプ)も高性能で大きな出力が出せることを前提に、ノイズを抑えるために感度を低くしている製品も多いです。
E500の場合、音声出力側が高性能であることを前提にしているのではなく、むしろ出力側の性能が低くS/N比が悪いことを想定しているように見えます。つまり、ノイズを拾いにくくするため、敢えて音声出力側のボリュームを上げて使うように設計されているのでは無いか、ということです。
確かにOculus Quest/Oculus Goではヘッドフォン端子のホワイトノイズが酷いので、そういった配慮が仮にされているとするとありがたいことです。
というのは考えすぎで、単に高周波数帯の不自然さをなくそうとして、こうなっただけの可能性もあります。
外観
E500は公式ショップFINAL DIRECT SHOPでの通販専用です。Amazonやヨドバシでは購入できません。現在はAmazonのSNEXTダイレクトショップからE500は購入可能です。
購入するとクリックポストの小箱で届き、箱を開けたらこのようなパッケージが入っています。
内容物はこんな感じで、上位のラインナップと比べるとシンプルです。
手持ちのE2000との比較
手元にE2000があったので外観を比較してみました。
E2000よりもE500の方がひと周り大きくなっています。前述の通りABS樹脂で筐体が作られている影響と思います。
イヤホンのドライバーの後ろ部分は、E1000と同様にE500は密閉されています。一方E2000は開放型ヘッドフォンのように音が抜けるようメッシュ状の穴が空いています。
またケーブルもE500の方が若干太くなり、タッチノイズを感じにくくなっています。この違いのせいか、E2000には付属していたイヤーフックはE500には付属しません。
左右が分かりづらい?
E2000/E3000には製品名とL/Rが白い文字で筐体に印刷されているのに対して、E500/E1000は製品名とL/Rが筐体に凹凸で刻印されています。
そのためE500/E1000は左右どちらかがぱっと見でわかりにくくなっています。シルク印刷で文字を印刷するのは意外に費用がかかるそうで、コストダウンのためにやむなくそうなっているとのことです。
ネット上でもE500/E1000はこの点がイマイチだという意見を多く見かけますが、実は左右を見分かるにはコツがあります。イヤーピースの裏側の色がピンクと灰色と違うので、その色覚えておくと簡単に左右を見分けることが出来ます。
左右どちらがどの色というのは組み立てで変えられますので、習慣的に先に耳に入れる方を目立つピンクにしておくと良いと思います。
音の印象
続いて実際に音を聞いた印象についてまとめます。
バイノーラルサウンドの場合
PCからTOPPING DX3 ProをDACとして使い、E500の商品紹介ページで紹介されているYouTube動画を試してみました。
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E500では確かにバイノーラルサウンドの効果を引き出せていると感じます。聞いた感じの印象はとてもリアルです。
スマートフォンに付属していたいくつかのイヤホンでも3D感が感じられないことは無いのですが、E500の方が音の分離や定位感がはっきりと感じられます。また、Virtual reality for your ears – Binaural sound demo (wear your headphones) – BBC Clickの「コップの中でスプーンをかき混ぜる音」のような残響音が強い場合に、E500ではその残響音が自然にカットされて、よりリアルな印象を持ちました。
では上位機種と比べてどうなのか?についてですが、これはこれで結構自然に聞くことが出来ます。
E2000の場合、多少は前述の残響音が響く感じはあるのですが、不自然とまではいかず、これはこれで有りなのではと言う具合です。聞き比べると、むしろE2000が持つ解像度の高さが際立ち、音の再現度はE2000の方が総合的に高いのでは無いか、とすら感じます。
音楽の場合
音楽プレイヤーにSHANLING M0を使って、普段聞いている音楽をハイレゾ音源を含めていくつか聞き比べてみました。
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E500は健闘はしているものの、音楽を聴く分にはE2000の方にやはり軍配が上がります。中音~高音にかけての解像度に差がある印象です。E500は残響音を自然にするためか、特に高音は弱めに感じます。
E1000は持っていませんが、店頭の試聴機でE1000を聞いた時に感じた印象とE500の印象は大分似ていました。なので「E500は音楽用途ではどうなのか?」が気になる方は、Amazon等でE1000のレビューを読んでみると良いのでは無いかと思います。
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Oculus Questの場合
ゲーム
Beat SaberとRobo Recall: Unpluggedを試してみました。E500とE2000どちらも与えられた役割をきっちりこなしている印象です。
Robo Recallにおいて、音の定位感はプレイしていて特に気になることはありませんでした。敵のロボットが来る方向も音で分かりますし、後ろに回り込まれたこともきちんと認識できます。
音ゲーであるBeat Saberをプレイしていても破綻はありません。E500は音楽用途では平凡ではありますが、ゲームのBGMとしてならではそんなに不満は無いかな、といったところです。
映像鑑賞
SkyBox Playerでライブ映像を鑑賞する際には、音楽の場合と同じような感想を持ちましたが、Oculus Quest自体のオーディオ性能が低いこともあって、そこまで顕著な差を感じにくかったです。
ホワイトノイズの差
Oculus Questはホワイトノイズが割と目立つのですが、E500は感度が低いこともあって他のイヤホンより若干ホワイトノイズが控えめに感じられました。この点は良いポイントではないかと思います。
まとめと結論
E500は評判に違わず高い性能を持ち、コストパフォーマンスが高いイヤホンであると言えます。約2000円という限られたコストの中でパラメータをVR・バイノーラル寄りに振ってあるようで、最適化されているという売り文句は伊達では無いです。特にイヤホンにこだわりが無い場合は、かなり良い製品なのでは無いかと思います。
一方で、音楽を単に聴いたり映画を見たりする用途においては、上位機種のE2000/E3000との実力差を感じました。価格差の分の違いはあるわけでは無いのですが、中音~高音の解像度や抜け具合の差は使っていて気なります。
E500はVR用途に限れば上位モデルを覆しているのか?と言われるとそれも微妙なところです。確かにE500のサンプル動画についてはE500の方がより自然な印象を受けるのですが、実際にVRのアプリをいくつか試した分には、E2000もVR用として十分すぎる特性を持っています。
というわけで、スマートフォンやポータブルプレイヤーでも使えるイヤホンが欲しい、Oculus Questでは映像を鑑賞する機会が多い、ということであればE500ではなく、もう少しお金を出してE2000/E3000を買った方が総合的な満足度は高そうです。私はこの選択をオススメします。
Oculus Quest・Oculus Go等専用でつなぎっぱなしにするイヤホンが欲しい、イヤホンにそこまでコストをかけたくない場合、E500はかなり良いと思います。
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