Windows Mixed Reality全ヘッドセットの価格・機能・性能をOculus/VIVEも含めて比較する

2017年10月4日

Windows Mixed Reality(Windows MR)はMicrosoftが用意したプラットフォームです。Microsoftが要素技術を提供し、各社が対応ハードウェアを開発・販売しています。

この記事ではそれらのスペックをOculus RiftやHTC VIVEとともに比較していきます。Windows MRそのものについてもっと知りたい方は以下の解説記事も参照して下さい。

ヘッドマウントディスプレイのスペック比較

 

販売元・モデル 解像度 視野角 パネル方式 リフレッシュ
レート
イヤホン 重量 価格
(参考) Oculus Rift 片目 1080 x 1200 110° 有機EL 90Hz 内蔵 470g $499
¥50,000
(参考) HTC VIVE
(初代・軽量化版)
片目 1080 x 1200 110° 有機EL 90Hz 外付 468g $599
¥84,110
HP 片目 1440 x 1440 105° IPS 90Hz 外付 835g $449
¥64,584
Dell Visor VRP100 片目 1440 x 1440 105° IPS 90Hz 外付 ? $449
¥58,500
Acer AH101 片目 1440 x 1440 105° IPS 90Hz 外付 350g $399
¥59,184
Amazon
楽天
Asus HC102 片目 1440 x 1440 105° IPS 90Hz 外付 400g以下  $429
(日本
発売
未定)
富士通 片目 1440 x 1440 105° IPS 90Hz 外付 415g ¥57,024
Lenovo Explorer 片目 1440 x 1440 105° IPS 90Hz 外付 380g $399
¥53,460
Samsung Odyssey (2017) 片目 1440 x 1600 110° 有機EL 90Hz 内蔵 645g $499
(日本
未発売)
Samsung Odyssey+ (2018) 片目 1440 x 1600 110° 有機EL
(スクリーン
ドア効果
低減版)
90Hz 内蔵 590g $499
(日本
未発売)

※重量はメーカー発表まま。ケーブルの重量を含むかどうかなど、基準が異なる可能性があるので参考程度見て下さい。

Windows MR対応デバイスを選ぶポイント

実は視野角も同じ?

Odyssey以外はスペックがほぼ横並びになっています。これは内部のレンズや液晶等が全てMicrosoftの設計を使ったODM生産であるためです。

いくつかのメディアの報道や公式ページでは視野角に違いがありそうな記述になっています。しかしながら、Microsoft Storeのサイトの表記では同じ105°と記載されていますので、実際は差は無いと考えて良さそうです。実は当サイトも当初はばらばらに集めた情報をもとに記事を書いていたのですが、現時点ではMicrosoftの情報にあわせています。

もしかすると、デザイン等の違いによりわずかながら差が出るのかもしれませんが、おそらく無理できる範囲でしょう。

従って液晶解像度や視野角のスペックを考慮する際は、Odysseyとそれ以外の製品群があると理解しておけば良いことになります。

重量と装着感がポイント

内部はほとんど設計が共通な一方で、外側の外装は各社個性が出ていて、内側のクッションなどにも差があります。そのため重量や重心も多少異なります。この中で一番大事なのは重量ですが、一部の製品はまだ正確な値を公表していません。

おそらく、販売側も重量が決め手になるのが分かっており、他社より不利になるまいとぎりぎりまで情報を隠しているのでは無いかと思われます。(時期的に製造は始まっているはずです。)

どのモデルにするかは値段だけでは無く長所・短所を比べてじっくり検討して決めたいのであれば、家電量販店等で一般販売されるはずですので、実際に装着してみて考えるのが一番確実なのでは無いかと思います。

Oculus Rift・HTC VIVEとの優劣について

液晶の品質

液晶パネルの性能が確実にOculus Rift・HTC VIVEを上回っていると言えるのは、SamsungのOdysseyだけです。

スペック上の解像度は、Windows MRデバイスがOculus Rift・HTC VIVEを上回っていますが、差はそこまで大きくありません。また、Odyssey以外のモデルは、表示パネルがLCDと表記(IPSもしくはAH-IPSのはずです)されており、有機ELを採用しているOculus Rift・HTC VIVEと比べて黒浮きする傾向があったり、視野角も狭くなってたりします。

解像度を取るかパネル品質を取るか、どちらも一長一短ありますので、気になる場合は実際に見比べることをオススメします。

トラッキング方式

Windows MRではセットアップが簡単な代わりに、Oculus Rift・HTC VIVEと比べて若干性能が劣ります。

Oculus Rift・HTC VIVEは技術的な思想は違うものの、ヘッドマウントディスプレイ以外に外部センサを設置する方式になっています。このセンサは仮想空間上に頭がどの位置に有り、どの方向を向いているのかを検出する(ヘッドトラッキング)ために使用しています。

一方 Windows MR対応デバイスはヘッドトラッキングのための外部センサを必要としません。これは、ヘッドトラッキングができないわけでは無く、DoF(Depth of Field、深度)センサを利用して、周囲の景色から相対的な位置を検出する手法を採用しています。

この方式は一般的にInside Out方式と呼ばれていますが、HTC VIVEも外部センサを必要とするだけでInside Out方式の一種です。それに対して、Oculus Riftの方式は、Outside In方式に分類されます。

Xin VR&AR Wikiより。

Windows MR方式のメリット

外部センサの設置は手間がかかります。その上ハードウェアが増えることで価格も高くなるため、外部センサが不要なことは非常に大きなメリットです。

スマートフォンを利用するVRも外部センサが不要でお手軽ではありますが、ヘッドトラッキングには対応していないため、体験はWindows MRと比べて格段に劣ります。

Windows MRが実現するInside Out方式のトラッキングは、VR/MR本来の体験を維持しつつ導入をお手軽にしてくれるとても優れた方式です。

Windows MR方式のデメリット

暗い場所で使えない

ヘッドマウントディスプレイに内蔵したカメラで周囲の景色を撮影して位置を計算するような仕組みであるため、暗い場所では使えません。

HTC VIVEのように、赤外線を照射してそれを検出する機構を取り入れれば、理論的には暗い場所でも使えるようにはなるでしょうが、今のところWindows MR対応デバイスの中でそのような機能を持つものは存在しません。

外部センサ不要を維持するのであれば、ヘッドマウントディスプレイがさらに重くなる事になりますから、そのような機能が追加される可能性も低いのでは無いでしょうか。

トラッキング位置の更新頻度が低い

専用の外部センサを設置する場合に比べ、Windows MRの方式では位置を計算するための手がかりが乏しくなります。すなわち、計算が複雑になります。そのため、1秒間に位置を計算できる頻度はOculus RiftやHTC VIVEには理論上劣ります。実際に両者の間にどれぐらいの違いがあるのか具体的な情報はありませんが、使用した感覚ではわずかながら差を感じました。具体的には頭を急に動かした時に映像が付いてくるのが少し遅く感じられます。

ヘッドマウントディスプレイとPCの接続はUSB 2.0であり、そこまで帯域は高くありませんから、おそらくヘッドトラッキングの計算はある程度ヘッドマウントディスプレイの中で行われていると推測します。この仮定が正しければ、PC側の性能向上により改善される可能性は低そうです。

ヘッドマウントディスプレイ部以外のスペック比較

ヘッドマウントディスプレイ以外にもWindows MRデバイスには、既存のVRデバイスと違う点があります。

フリップアップ機構の有無

Windows MR対応デバイスだけが持つユニークな特徴としてフリップアップ機構が上げられます。この機構により、PCのディスプレイを見る状態とヘッドマウントディスプレイを見る状態を楽に切り替えることができ、ビジネスアプリケーションの利用やVRアプリケーションの開発がスムーズに行うことができます。

仕組みとしては、「ヘッドマウントディスプレイを頭に装着する時に使うバンド部分」と「本体のディスプレイ部分」が可動する形で分離しており、ディスプレイ部分だけ上げたり下げたりできるようになっています。

コントローラ

種類

Windows MRに対応するモーションコントローラは現時点で一種類のみです。これはMicrosoftが開発したリファレンスモデルであり、各社に違いはありません。機能的にはOulus Rift用のOculus Touchコントローラに非常に良く似たものになっています。

仕組み

Windows MRはInside Out方式を採用していると書きましたが、コントローラの位置検出方法はOculus Touchとほとんど同じ方法になっています。

コントローラに多数のLEDが埋め込まれ、ヘッドマウントディスプレイ側がコントローラ上のLED位置を読み取り、仮想空間上のコントローラの位置や姿勢を計算します。

Oculus Riftでは外部センサがコントローラのLEDを読み取っていましたが、 MRではヘッドマウントディスプレイが読み取っているのが違いです。この違いによりメリット・デメリットが生まれます。

メリット

ヘッドマウントディスプレイと場合と同じく、外部センサの設置が不要でお手軽な点がメリットです。

デメリット

コントローラのトラッキング範囲がOculus RiftやHTC VIVEと比べて狭くなってしまうのがデメリットです。ヘッドマウントディスプレイからコントローラのLEDを読み取りますから、頭から見て死角になるような位置ではコントローラを見失ってしまいます。

実際死角は意外に大きいです。普通に前を向いて自分の目の視界に入る範囲がコントローラのトラッキング範囲と考えておくとよいでしょう。ちょっとしたVRのソフトを体験する場合はあまり問題にならないかもしれませんが、FPSなどルームスケールを活用したゲームではかなりの障害になります。

将来的にはコントローラが内蔵する六軸センサから大体の位置を予測することで、トラッキング範囲を超えてもある程度自然に見えるような機能を追加する予定はあるようです。しかしながら、六軸センサはもともと絶対位置を検出する事が不得意なセンサであり、誤差を補正する手段が必ず必要になりますから、どんなに頑張っても外部センサを別途設置するOculus RiftやHTC VIVEとは同じにならないと予想します。

対応ソフトの多さ

Windows MR対応デバイスはSteamVRにも対応していますから、対応ソフトの多さはHTC VIVEより多い事になります。実際にはコントローラの違いにより一部動かないソフトもありますが、大体動くと考えておくと良いでしょう。

ただし、Windows MRデバイスでSteam VRを動かす機能は早期アクセスと呼ばれるベータ版扱いになっていますから、コントローラの違い以外の要因で動かないことも覚悟しておく必要があります。

SteamVRが動作するため、Reviveを使うことでOculus Riftのソフトも動作下との報告もあります。

もし、SteamVRやReviveでお目当てのソフトがある場合は、環境をそろえる前にWindows MR上で動作するかを確認しておくことをお勧めします。SteamVRでWindows MRに正式対応しているタイトルのリストはこちらから確認できます。

対応PCの多さ

WindowsMRは、動作するスペック基準として「Windows Mixed Reality PC」「Windows Mixed Reality Ultra PC」の二つを定めています。

Windows Mixed Reality Ultra PCはHTC VIVEやOculus Riftと同様に、専用のGPU(グラフィックス処理ハードウェア)を必要とする高い性能基準になっていますが、Windows Mixed Reality PCはCPUに内蔵する一般的なGPUでも満たせる低めの性能基準になっています。つまり、HTC VIVEやOculus Riftと比べて、PC側に特別な追加コスト無くWindows MRを動かせる場合が多いと言うことです。

ただし、SteamVRで扱われているようなVRゲームを楽しむには HTC VIVEやOculus Riftと同様のWindows Mixed Reality Ultraクラスの性能が必要であることに注意して下さい。Windows MRの動作に必要なスペックの詳細はこちらの記事)でまとめています。

対応OS

Windows MRデバイスの利用には必ずWindows10 Fall Creators Update以降が必要です。Windows8やWindows7では動作しないので気をつけて下さい。

他のVRデバイスでも10の利用が強く推奨されていますので、もしWindows 10を使っていない場合はVRデバイスを購入する前にアップグレードを検討するべきです。

総評

Windows MR用デバイスは、今までのVRデバイスを圧倒的に上回るような物では無く、一般ユーザが利用する場合に優先度の低い仕様を切り落とし、安価に提供することで、広く普及することを目指したデバイスと言えます。 各社からWindows MR対応デバイスの価格が発表された後、Oculus RiftとHTC VIVEは相次いで値下げをしており、VR機器全体の値下げにも貢献しました。

ルームスケールを生かしたVRならではの体験、という点ではまだOculus RiftとHTC VIVEに軍配が上がります。これはWindows MRがゲーム等の体験よりもビジネスアプリケーションへの活用を狙ったプラットフォームである事が影響しています。

といっても、プレイエリアが狭いわけでは無く、位置トラッキングの反応の良さやコントローラの追跡範囲が多少劣るだけですから、一部のソフトを除けば気にならない差ではあります。従来のパッドを使うようなゲームのVR版や、映像や受け身の形で体験するソフト主体で利用する場合では、コストパフォーマンスが高い選択なのではないでしょうか。

Windows MR対応デバイス同士でみると、装着感や重量というのは決め手にやや欠けます。VRデバイスを初めて購入するのであれば、Windows MRはまず入門用と割り切り、安かったり入手性の良いものをあまり考えずに選択しても良いのかもしれません。

既にVRデバイスを持っている場合は、SamsungのOdysseyシリーズが気になる存在になります。ヘッドマウントディスプレイの表示品質だけに着目すれば、現時点で最高性能を持つVIVE Proに匹敵します。その割に初代のOdysseyは型落ちで半額近い値段で入手できます。またOdyssey+のスクリーンドア低減(網目感)液晶による擬似的なppi向上機能はオンリーワンの存在です。

まとめると、どれが決定版かと言われると難しいですが、これからも対応デバイスが増えて選択肢が広がって行くでしょうから、そちらにも期待です。

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