VR酔いを防ぐための基礎知識

2017年3月20日

VR酔いは、「目に入ってくる視覚情報」と「実際に体が感じる重力や揺れ」が一致しないことが原因で生じる自律神経の異常現象です。この現象により乗り物酔いに似た不快感を感じます。

この記事では発生メカニズムや予防方法を紹介します。

あなどってはいけない

VR酔いの症状は乗り物酔いに近く、典型的にはあくび、唾液の分泌増加、胃の違和感などに始まり、ひどくなると吐き気や嘔吐に至ります。乗り物酔いは気分が悪くなるまでに少なくとも5分ぐらいはかかりますし、しばらく安静にしていれば直ります。

一方VR酔いは、酷いコンテンツ(アトラクション)だと慣れている人でも1分も経たずに吐き気を感じる場合もありますし、長時間VR酔いを体験すると翌日になっても症状を引きずるVR二日酔いにもなり得ます。

発生メカニズム

乗り物酔いの場合

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「目に見えるもの実際の体への刺激の間の矛盾」は車酔いや船酔いにも似ています。たとえば、揺れの激しい車の中で本を読むと酔いやすいが、窓の外を眺めると少し酔いにくくなる、ということは多くの人に経験があると思います。

これは文字を読もうとして、本を目の前に固定して視界は変わらなくなるのに対して、体は揺れを感じることにより、視覚と感覚の間に不一致をを感じて余計気持ち悪くなる、ということが起こっています。そこで窓の外を見ると、固定されている外の景色に対して自分が相対的に揺れていることを認識でき、実際に体に感じる揺れと感覚が一致して酔いが軽減されます。

VR酔いの場合

VRの場合、目はヘッドマウントディスプレイで完全に覆われ、体の動きと関係なく視界に入ってくる景色が動きます。乗り物酔いのように体自体が揺れることはないものの、そのせいで余計に目に見えるもの実際の体への刺激の間の矛盾が生じやすくなります。

とはいえ、視界が頭の位置の変化に対して同じように動くのであれば、酔いは感じません。VRにおけるポジショントラッキングはこれを可能としており、この法則を守るのであれば基本的に酔いは起こりません。

ただし、体を動かす以外の方法、たとえばゲームパッドや自動的な移動をすると、視界と体の実感の間に矛盾が起き、VR酔いが起こります。

乗り物酔いは継続的な揺れによる影響も大きいのですが、何らかの刺激を受け続けた事によって発生したストレスにより、自律神経に不調が起こるという点はVR酔いも同じです。

乗り物酔いの弱い人はVRにも酔いやすい?

発生メカニズムが似通っていることから、乗り物に酔いやすい人はVR酔いにも弱いことが非常に多く、相関関係があります。筆者も乗り物酔いには弱い方ですが、やはり他の人よりVRにも酔いやすい自覚があります。

VR酔いと酔い止めについて

乗り物酔いを防ぐ薬はVR酔いにも効果があるようです。実際米国の酔い止めの薬の宣伝にVRが使われました。

酔い止めの常用は危険?

ただし、VR酔いに弱いからといって、日常的に酔い止め薬を服用しながらVRを利用するのはお勧めできません。酔い止めは脳内の分泌物質をコントロールして自律神経を鈍らせるものですので、睡眠薬の過剰服用と同様に、脳内の分泌物質のバランスを崩し、精神が不安定になったり鬱病を引きおこす可能性があるといわれています。

VR酔いに強くするためには酔い止めを服用して慣れると良い、と書かれた記事をしばしば見かけますが、日常的に薬に頼るのはやめておいた方が良いでしょう。VRアトラクション施設を楽しむためたまに使う程度にしておくのが無難です。

VR酔いを回避するには?

VR酔いが起こってしまうことは仕方がありません。体調や精神状態(酔うんじゃ無いかという不安)など、様々な要因はあるものの、体質的に酔いやすい人は酔ってしまいます。

__VRアトラクション施設を利用する場合はそれなりのお金を払いますし、途中でやめるのも簡単ではありません。__VRを体験する前にできるだけ酔いにくいような準備や知識をつけておくと良いでしょう。

ひどいVR酔いを経験した人は、ヘッドマウントディスプレイをかぶっただけでも気持ち悪くなったりします。これも、乗り物酔いのひどい人が車の臭いだけで気持ち悪くなってしまうことに似ています。何事も初めが肝心です。

体調を整える

VR酔いは自律神経の異常ですから、体調を整えることはVR酔いを軽減するために有効です。

前日は睡眠を十分にとっておきましょう。また、空腹過ぎず・満腹すぎず、アルコールを摂取しないなど飲食のコンディションを整えることも効果的です。

酔いにくいコンテンツを選ぶ

VR酔いの起こりにくさは、体験するコンテンツにも大きく左右されます。あらかじめ評判を調べておいたり、アトラクション施設の場合は係員に確認するなどして、自分に合ったコンテンツを選びましょう。

時間が短い

乗り物酔いと同じように、体験している時間が長ければ長いほど酔いが蓄積され、気分が悪くなりやすくなります。

VRアトラクション施設のコンテンツや、ゲームでは無いデモソフトはかなり酔いにくいです。長時間のプレイが必要なゲームは作りが良くても結果的に酔いやすくなります。

視点移動が体を動かすのみ、またはワープ

前述の通り、視界と感覚の間にずれが生じやすいのは、実際に体を動かしていないのに視界が動くような場合です。

そのため、VR酔いを防ぐ対策としてルームスケールVR環境を最大限に活用する、つまり移動を体の移動だけに絞ってコントローラを使わせない、もしくは移動の過程を見せずワープする、という方法がとられます。

VRアトラクション施設では部屋の中を自由に歩き回ったり、椅子が揺れたりするなど、体にちゃんとフィードバックを与えるような工夫がされていることが多いです。これは臨場感・没入感を向上させることに一役買っていますが、同時にVR酔いも起こりにくくする効果があるというわけです。

視界に固定オブジェクトがある・視界が狭い

VRアトラクション施設のコンテンツの場合、あまり考慮してもしょうが無いですが、VR対応のゲームを選ぶ場合には重要なポイントです。

視界が全面に広がっており、自身がVRに入り込んでいる感覚が強くなると、それに比例してVR酔いも起こりやすくなります。

そのため、VR酔いを防ぐ対策として画面内に固定オブジェクトを用意する方法も良くとられます。コクピット視点にして、窓枠や操作盤などの固定レイヤを用意して視界を狭めたり、自身の鼻を描画してなるべく視点の中心が意識されやすいようにし、実質的な視界を狭めるなどの工夫が良くされます。

元々一般向けで、後からVRに対応したレースゲームでは、コックピット視点や上からの見下ろし視点など、視点が選べるようになっている物が多いですが、コックピット視点以外は激しいVR酔いを招く事も覚えておくと良いでしょう。

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また、マインクラフトではVR空間内にテレビ画面を用意されていて、それで遊ぶのが基本になっていたり、Google Earthでも視界を狭めるモードが用意されていたりもしますが、同じ理由です。

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VR酔いは慣れる?

個人差はありますが、VR酔いに慣れることはあるようです。日常的にVRを利用していると半年ぐらいで強くなった感覚があった、声もちらほらあるようです。個人的にはそこまで慣れたという実感を得られたことはまだ無いため、個人差がかなりあると考えられます。

VR酔いについての文献

VRは最近急に盛り上がって来ていますが、研究としてはかなり昔から行われており、体の仕組みと関係についての知見もいろいろ蓄積されています。コンテンツを開発するような立場の人は、こういった定番の資料をまず読んでみるといいかもしれません。

バーチャルリアリティ学
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  • : 舘 暲, 佐藤 誠
  • 価格 : ¥2,970
  • 単行本(ソフトカバー):408 ページ
  • 出版日 : 2010/12/16
  • メーカー : コロナ社
  • 商品ランキング : 51,396 位

セットアップ環境の改善でVR酔いは軽減できる?

Oculus RiftやHTC VIVEなどを所持していて、VR酔いしてしまう場合はセットアップやPCの環境を見直すべきかもしれません。

位置トラッキングが外れたり、性能不足により描画が追いつかずにフレームレートが低下してもVR酔いを引き起こします。これにはプレイ環境の改善が必要です。

センサ配置の改善については、以下の記事を参考にして下さい。

PCの性能を向上させるには、グラフィックスカードの選択がポイントになります。詳細は以下の記事を参考にして下さい。

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